捜 索
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兎も角、お金を下ろしてこなくては生活ができなかった。
久しく見てなかった通帳だが、いつもの場所にそれはあった。すぐに聡一の車で銀行に行った。用紙に当面の生活費として5万円の金額を書いて窓口に出した。 暫くして呼ばれたがカウンターの女子行員の言葉にハナは耳を疑った。 「申し訳ございませんが残高が不足しております」 そんなはずはない。あの横領事件があった時残高は400万円程あったのだ。それから1年半、年金も入ってるし、一銭も使ってない。500万円程の残高はあるはずだった。それが今5万円の金も残ってないとは。 横領だ。また銀行のやつが横領したのに間違いない。 「あんたたち何回横領すれば気が済むの」ハナは大声で叫んだ。 行員はあっけにとられている。聡一も驚いた。 聡一は、すぐにハナを諌めその場を立ち去った。 ハナは聡一に前の横領事件のことを話した。前の事件のことを知れば今回も横領されたのが分かるに違いないとハナは思った。 ハナの予想に反して聡一の答えは冷たいものだった。 「母さん何言ってるの。銀行の人が横領する訳ないだろう」 そんなはずはない。夫だけでない、あの北進銀行の田中もそう言ってたのだから、いくら自分の息子とは言えまだ世の中のことをあまり分からないのだろうとハナは思った。 「大袈裟にしたら返すものも返せなくなるでしょ」 「それじゃ、かあさんのその70万円は返ってきたのか」 ハナは思いっきり殴られたようなショックを覚えた。そうだ、あれから戻ってないんだ。作治は程なく戻るだろうと言ってたのに。 ハナは作治の呪縛から解き放たれつつあった。そう思うと不思議なことが一杯あった。何年も暮らしてて、年賀状の一枚も作治あてに来なかったのはなぜなんだ。作治に聞いたら、全部会社に来てるって言ってたけど、個人あてまで会社に送るものだろうか。作治の知り合いは誰とも会ったことないのはなぜか。だから誰の顔も知らない。いや、甥の木村の顔は知っている。ハナは知った顔があることを思い出しホッとした。 作治が木村とスナックに飲みに行ったときの写真を見たことがあったのだ。 作治は「どうだ、似てるだろう」と言って写真を見せてくれた。 目元が似てる気がして「そうね、似てるね」とハナは答えていたのだ。 「兎も角警察だ」聡一は叫んだ。頭が混乱していた。まだ、作治を信じる気持ちはあったが、今となっては聡一の言うことを聞かないわけにはいかなかった。 担当は、生活安全課という部署だった。 「それで、旦那さんが取ったと言う証拠はあるのですか」担当刑事は聞いた。 「証拠と言っても本人がいないので何もありませんが」 ハナだって作治が取ったとは思いたくなかった。キャッシュカードを持ってるだけで客観的な証拠は何もなかった。作治を落としいれようとしてハナが嘘を言ってるとも取れなくはないのだ。 「あなたと、作治さんは結婚してるのですね。それで、旦那さんが家のお金を使ったとしてもそれは作治さんの金でもあるわけですよね。財産的には夫婦でも別ですけど、それを互いの了解のもと使うってことはありますよね。それと警察は民民間に入ることできないんですよ。特に夫婦間の問題には介入不可能なんですよ」 「詐欺じゃないのか」聡一は叫んだ。 「結婚詐欺と言うのは結婚を餌に金品を奪うことですから、結婚していれば結婚詐欺にはならないですね。普通の詐欺としても、騙す意思が必要です。もう結婚して3年も経ってるし詐欺と言えるかどうか。おそらくあなた方の言ってることは正しと思うし旦那さんが最初から騙す意思があったなら、詐欺罪の成立する余地はありますがそれの立証ができない状況です。現に確認しようにも本人がいないんですから」 「いないと言うことは逃げてると言うことだから、何もやってない人が逃げる訳ないでしょう」 「逃げたかどうかは分からないでしょう。何かの事件に巻き込まれてる可能性だってあるのだから」 「そう思うなら調査してください」 「いいですか、行方不明の人なんて何人いると思うのですか。例えばホームレス、あの人達の殆どは家族から見たら行方不明の人たちなんですよ。警察は明らかに事件と分かるもの以外捜査することは不可能なんですよ」 「どんなのが事件と言えるのだ。これだってれっきとした詐欺事件じゃないのか」 「例えば死体がでてくるとかです」 聡一はこれ以上言ってもどうしょうもないような気がした。分かったことは要は警察は動いてくれないと言うことだ。一応、勧められ捜索願は出しておいた。捜索願を出したからと言っても捜索などはしてくれないらしい。だったらなんで捜索願という名前なんだと聡一は思った。身元不明の死体などがあったときにはじめて捜索願が生きてくるらしい。 北進銀行の田中がいる。会ったことはないけど銀行が逃げる訳ない。田中は作治が昔世話をしてたから作治の行方を知ってるに違いない。 「銀行に行く」ハナは叫んだ。その前に田中の名が記されたものをハナは持っていたのでそれを見た。作治に何かあったときにハナに財産を分けると言う書類を作治が作っていたのだ。別にハナが頼んだ訳ではない。作治が勝手に作って持ってきてくれたのだ。書類には具体的な口座名と残高が書かれていて、作治と田中の印鑑を押していたのだ。それには「北進銀行西支店 田中良助」と書かれていた。 しかし、銀行に行く必要はなかった。「北進銀行西支店」などは存在してなかった。 これで作治が嘘を言ってることが証明された。ハナはそれでも、「北進銀行西支店」は最近廃止されたのではないかと何度も銀行に聞いたが、最初からそんな支店はないとの答えだった。 何かの間違いとハナはまだ思っていた。 甥の木村だ。唯一顔を知ってる甥の木村に会えば分かるだろう。スナックだ。あの写真のスナックに行けば何か分かるだろう。 「スナック恵美」一度作治に連れられて行ったことがある。もともとそれほど大きな街でもなく、繁華街の場所は限られてるから「スナック恵美」の場所はすぐに分かった。 「私たちも困ってるのよ。奥さんでしょ、何とかしてくださいよ」ママと思しき女性がため息混じりに言った。作治はツケで飲んでたのだ。そのツケが相当たまってると言うのだ。 「木村さんに払ってもらえばいいでしょう」作治は木村も常連と言ってた。 「木村、木村って誰」 「うちの人の甥よ。良く来るでしょ」 「知らないわよ、そんな人」 「そんなことないでしょ。ほらこの写真のこの人」 「ああ、この写真ね。でも、この人は木村って言わないわよ。それに作ちゃんの親戚でもなんでもないわよ。だってこの日に初めてあって、たまたま一緒に写真撮っただけなんだから」 |